HIFIMAN JAPANから新発売となった平面磁界型ヘッドホン「Edition XS」の実機レビューを紹介します。Edition XS は平面駆動型シリーズで2016年に発売されたEdition Xから6年という長い年月かけてついに世に生まれかわった後継機種となります。
平面磁界型ヘッドホンは、実は新しいものではなく、数十年前のオーディオ黄金時代にも一度人気を呈した時期がありました。しかし、オーディオの流れが退潮するにつれて、コストのかかる平面磁界型は廃れていってしまったという経緯があります。そしていまヘッドホンオーディオが見直されている時代に、再度注目を浴びつつあります。
結論からいうと「また、HIFIMANからヘッドホンの名機が一つ誕生してしまったか」と感じさせてくれる完成度の高いハイクオリティヘッドホンです。
いわるゆる一般的なイヤホン、ヘッドホンのダイナミック型で多いドンシャリのような音質とはほど遠く、お寿司に例えたらチェーン店の回転ずしではなく、板前さんが目の前で握ってくれるような少しリッチなお寿司屋さんで食べているような感覚です。
私もこれまでにHiFiMANのヘッドホンは「DEVA」「DEVA PRO」「SUNDARA」「HE400SE」「JADE II」など多くのヘッドホンを試してきましたが、HIFIMANの平面駆動振動板をベースとした音作りはとても繊細な音を奏でてくれ、音域が広く、臨場感のある音色に惚れ込んでいる一人になります。
「Edition XS」でも、他のヘッドホンでも多く採用されているHIFIMAN独自のNEO"supernano"振動板 (NsD) を採用することで、従来よりも80%も薄く、素早い信号応答と豊かで精細感のある音楽を実現してくれています。中でも音の分離感、解像度は際立っており、まるでコンサート会場の中にいるように感じられました。
定価は約6万円と高級ヘッドホンの部類にはいりますが、コロナ禍でライブ中止が相次ぎ、在宅も増える中、「Edition XS」で毎日ライブ気分を味わえると考えれば人によっては相応だと感じられるかと思います。
今回は現役スピーカー設計者である私が設計者の観点から「Edition XS」の魅力や平面駆動型のメリット気になる点などを実機レビューしていきます。
- オーディオメーカ「HIFIMAN」とは?
- HIFIMAN 「Edition XS 」の基本スペック
- Edition XSの実機レビュー(外観・デザイン)
- ステレスマグネット採用の「平面磁界型ヘッドホン」とは
- 実際に「Edition XS」を使ってみて感じたメリット
- 「Edition XS」の気になる点
- まとめ
オーディオメーカ「HIFIMAN」とは?
HIFIMANは、Fang Bian氏がニューヨークで2007 年に創設した会社です。早くからハイレゾオーディオの重要性に着目したオーディオ企業のひとつです。
HIFIMANはその功績が広く認められ2019年から一般社団法人日本オーディオ協会の会員となっています。
HIFIMANの製品はオーディオマニアを熱狂させたHE5平面駆動型ヘッドフォンを始めとして、高性能ヘッドフォンとポータブルオーディオを最も多く開発したメーカーのひとつとして認知されています。
平面駆動振動板の入門モデル「HE400SE」は以下で実機レビューしています。
また、HIFIMANではヘッドホンだけでなく、ワイヤレスイヤホンも販売しています。
独自のトポロジー振動板を採用している「TWS800」もレビューしています。
HIFIMAN 「Edition XS 」の基本スペック
Edition XSの実機レビュー(外観・デザイン)
こちらがHIFIMAN「Edition XS」の外箱になります。
箱をあけると、オシャレなカーテンレースのような黒い布にヘッドホンがすっぽり収められています。
付属品としては、ヘッドホン以外に着脱可能バランス対応3.5mm端子付き標準ケーブルと保証書・説明書が入っています。
こちらが「Edition XS」の側面写真です。前モデルのEdition Xに比べて、ヘッドバンドの形が変わっていますが、ハウジング部分の外観は似ているのがわかります。
ヘッドバンドの部分は合皮素材になっており、適度な反発力とクッション性があります。
接触面に布地が採用された厚手のイヤーパッドは、適度な弾力感があり、外側は合皮にような素材になっており、夏には蒸れにくく、冬はあったかいクッション性の高い素材になっています。
耳とドライバーの間の容積は広いため、低域が抑制されたり、不要共振もなく自然な鳴りっぷりになっている要因の一つになっていそうです。
開放型なので、遮音性はそこまで高くはありませんが、耳へのフィット感も良好です。
「Edition XS」では左右それぞれに3.5mm端子を接続するようになっており、いわるゆ両出し方式になっている。
ネックバンドとハウジングの中間部分は「Edition XS」とカッコよくロゴが刻印されています。
「Edition XS」は従来の平面振動板より80%薄い!
新しいEdition XSは人気のEdition Xを引き継ぎ大きな改良が加えられています。その中の一つはNEOスーパーナノ振動板です。元のバージョンより75%薄く、音の情報量も豊で歪の少ないサウンドを実現しています。
こちらの比較写真は右が通常の平面駆動振動板を採用しているHE400SEに対して、左がNEO"supernano"振動板 (NsD) を採用している「Edition XS」です。
写真をみれば、薄くなっていることは一目瞭然ですね。
DEVA PROなど最近のHiFiMANの中で標準価格帯以上(約3万円以上)のモデルでは薄型化した平面駆動振動板が多く採用されています。
こちらの比較写真も右が「Edition XS」に対して、左が「HE400SE」になります。
見た目としては「HE400SE」が中心のハウジングが黒になっているのに対して、「Edition XS」ではメタリックでシャープな線が横に向かって綺麗に配列されたカッコいい仕様になっています。
さらに開放型なので平面振動板もうっすら見えてカッコよく仕上がっています。
また、「Edition XS」では薄いだけでなく、振動板面積を広くとっているからか今回比較対象とした「HE400SE」などの他のモデルに比べて、低域もより豊かになっているように感じられました。
一般的に、振動板面積が広いことは「低域」の音を出すことが容易になることや、音圧が高くなるので、メリットが多いです。
3.5mmステレオミニケーブルとバランス(TRRS)ケーブルの両方に対応
ヘッドフォン側のケーブル端子は、左右両出しの3.5mmステレオミニケーブルと片側(左側)は3.5mmバランス(TRRS)ケーブルの両方に対応しています。
またケーブル端子の先端はL型形状なので、プラグを挿入する面と水平になるので、断線のしにくい形状になっており、安心感があります。
ステレスマグネット採用の「平面磁界型ヘッドホン」とは
平面駆動振動板は平面の振動板に対して全体にコイルが配置されており、「全体に均一振幅するので、振動板の分割振動が発生しにくい」というメリットがあります。
従来から平面駆動型ヘッドホンは多く存在していますが、中でもHIFIMANの平面駆動型ヘッドホンはステレスマグネットと呼ばれる平面振動板(縞模様の板)の前に棒状の磁石が七本均等な感覚で配置することで、音質劣化を防いでいます。
平面型には大きく分けて、磁気で振動板を動かす「平面磁界型」と、静電力で振動板を動かす「静電型」の2種類に分けられます。後者の代表格は国産のSTAXです。HiFiMANでは「JADE II」がそれに該当します。
ただしこのタイプは静電力を生むための特別なヘッドホンアンプが必要になります。
今回ご紹介する「Edition XS」では専用アンプが不要な平面磁界型のドライバー機構が採用されています。
この平面駆動型ドライバーはダイナミック型では音質面(特に振動板の分割共振領域における歪)で限界のある構造に対して一つの解決策を示してくれており、HIFIMANの高い設計技術が活かされて生まれた技術の集大成ともいえます。
平面磁界型のデメリットは
振動板としては理想的な平面磁界型ですが、一般的には能率が低く、アンプで持ち上げないと出力が足りないというデメリットがあります。
このために高出力のヘッドホンアンプが欠かせないものとなっています。
ただし、ヘッドホンはスピーカのように遠くで鳴らさず耳の近くで音を出すためそのデメリットを補える良さがあるとも言えます。
また構造上重くなりがちで、開発コストがかさむために価格が高くなってしまう点もデメリットだ。
実際に「Edition XS」を使ってみて感じたメリット
没入感のあるラグジュアリーサウンド
HIFIMANのステルスマグネット技術は、音響的に透明度が高く、音波の完全性を劣化させる波動回折の乱れを劇的に減少させ、音波出力の精度を最大化させることができます。
独自の形状により、波がマグネット間を干渉することなく通過することができます。音色は詳細で透明感があり、録音の細部まで明らかにします。
新しいステルスマグネットの設計により、昨年HiFiMANから発売された「DEVA Pro」と同様に「Edition XS」においても従来より容易に駆動でき、より良いイメージング、堅固なビルドクオリティ、そしてより正確なサウンドステージを提供しています。
ジャズやオーケストラを聞けば、音の分離の良さはすぐにわかるし、広がり感のある音質です。音の定位感もとても良いです。
平面振動板ならではの全帯域がとてもナチュラルで、フラットです。繊細な表現も正確に鳴らす制動性も感じられ、開放型ならではの音場の広さもしっかり備えています。
Edition XSでは平面駆動振動板の面積が広いメリットが十分活かされ、低い共振周波数(F0)や無理のない振幅制御によってさらに研ぎ澄まされたような音質に仕上がっています。
今回はAdo「心という名の不可解」、米津玄師の「Flamingo」、BUMP OF CHICKENの「Flare」、宇多田ヒカルの「First Love」、ずっと真夜中で良いのにの「あいつら全員同窓会」などいろいろ聞いてみました。
音質に関しては、「豊かな低音、広くフラットな音場、楽器の区別が容易にできるほどの分解能の高さ」などメリットしか思いつきません。
このレベルの音質になってくるともう音が良いのは当たり前で、好みの問題になってきます。
・ステルスマグネット技術搭載で、音響的に透明度が高く、音波の完全性を劣化させる波動回折の乱れを劇的に減少させ、音波出力の精度を最大化
⇒つまり原音再生により近く、歪が低く、高音質!
・平面磁界型構造を採用することで、ライブ会場にいるかのような包み込まれる没入感のあるラグジュアリーサウンド
「Edition XS」の気になる点
正直なところ音質にはとても満足しており、不満はありません。家で使う分には長く愛用できるお気に入りヘッドホンの一つになりそうです。
先日レビューした専用アンプが必要となる導電型ヘッドホン「JADE II」と比較してしまうと臨場感、広がり感にはまだ差は感じられますが、価格が一桁違うことと「JADE II」はそもそも比較対象は「STAX」レベルになってしまうので、コスト面を考慮するとそれは適切な比較ではありません。
しいての希望を言うとすれば「Edition XS」も「Deva Pro」と同様にワイヤレスとの「ハイブリッドヘッドホン」にしてほしかったなと思いました。
HiFiMANでは「Bluemini R2R」という外付けのトングルをつけることでワイヤレス化できる技術をもっています。「Deva Pro」には搭載されているのですが、Edition XSは非対応です。
また、将来的にはSONYやBOSEのように「Bluemini R2R」をつけなくともチップをヘッドホンに内蔵することで、軽量化すればさらに対象とするユーザー層も更に広くなるかなと今後の期待を込めて、個人的には思いました。
とはいえ、これだけガチのヘッドホンを外で使う人も少ないと思うし、音質に究極的にこだわっていくなら有線であることは決してデメリットではないので、正解不正解というよりはそれぞれの好みによるものかと思います。
また、平面駆動型ヘッドホンはその原理上、音漏れするので、基本的にはそもそも外で使うことはあまり想定していないかと思います。
まとめ
今回は高音質重視のワイヤレスイヤホンを探している方へ向けてHIFIMAN JAPANから新たに発売となった「Edition XS」の実機レビューを紹介しました。
HiFiMANのヘッドホンをレビューしていく中で、どのヘッドホンもこだわりが強いことを改めて感じました。正直なところ今まで音質面においてハズレを引いたことがありません。
平面駆動ヘッドホン初心者の方はHiFiMANのどのヘッドホンを使っても満足度は高いと思いますが、「Edition XS」は全体的な平均点がより高く、部品一つ一つの作りもしっかりしているので長く愛用できる名機なので、自信をもっておすすめできます。
私も先日、コロナの影響で2/10に予定していたBUMP OF CHICKENのライブも延期となり、しばらくはライブに行く予定がなくなってしまったので、「Edition XS」を聴きながらライブ気分をしばらくは体感し、堪能したいと思います。
「百聞は一聴に如かず」なのでHiFiMANのヘッドホンを手にしたことが無い方は一度その良さを知ってみてはいかがでしょうか。
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